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Feature Report特集レポート

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Report of Japan

「つながり」を信じて進みだす 日本事業の活動開始から3年

「つながり」を
信じて進みだすなんとかしたいSTORY JAPAN

Report of Japan

田口 陽子Yoko Taguchi

妊産婦支援事業部ディレクター

中学生のころから、途上国の貧困や飢餓など、社会の構造によって生まれる理不尽な課題に違和感を抱いてきました。総合商社勤務の後、大学院で平和学を学び、開発コンサルティング会社・NGO等を経て、2017年にかものはしに入職しました。国内の児童虐待問題に出会い、かつて違和感を感じていた社会構造は、私たちの中にもあることに気づかされながら、妊産婦支援事業に取り組んでいます。食べること・ごろごろ・夏が好きです。

児童虐待に取り組む
ということ

私はかものはしプロジェクトの日本事業部で、チームの皆と一緒に事業の立案と推進を行っています。児童虐待に取り組もうと決めた後、私たちはこの問題について知ることから始めるため、ある20代の被虐待経験者の女性に話を聞かせてもらうことになりました。

4年前のその日、私は当事者を前に緊張と戸惑いを感じていました。どんな顔で、どんな反応をしたら良いのだろうかと。話を聞き始めると、彼女は繰り返し「重い話ですみません」とぎこちない笑顔を作りながら壮絶な経験を振り返り、人生を語ってくれました。

何かがおかしい。違和感を感じました。その正体を探っていくと、「なぜ、虐待を生き抜いてきた彼女が、その経験を謝りながら語るのだろうか」という疑問が浮かびました。謝るべきはむしろ、虐待を引き起こし、それを傍観していた社会なのではないか。そして私自身がその社会の一部だ。自分が恥ずかしくなり、この問題に取り組むことに不安を覚えました。

児童虐待の相談対応件数は年々増え続け、2020年以降は年間20万件を超えています。虐待は身体的、心理的なダメージを子どもに与え、その影響から将来にもわたって対人関係に難しさが生じたり、日常生活に支障が出たりすることも少なくないと言います。児童虐待は、20万件の先にいる一人一人の子どもの人生を大きく変えうる、人の「尊厳」に深く関わる問題です。

この深刻な問題に私たちはどう立ち向かえばよいのか。あの日彼女が、未熟な私たちに気を遣いながらも、大切な人生を語ってくれたことの意味は。そんな問いを抱き続けてきました。

「つながり」を信じて、
進みだす

事業立案にあたり虐待の発生原因を調べると、一つの原因があるわけではなく、複数の要因が複合的かつ重層的に絡み合っていることがわかりました。虐待に至りやすいリスク要因として、若年妊娠や親の精神疾患、子どもの障害や育てにくさ、ひとり親家庭、経済的困窮などがあり、これらが互いに影響し合っています。しかし、リスク要因があれば虐待が発生するわけではありません。

結局のところ一体何が虐待を引き起こすのか、課題を構造化しようと繰り返し試みた結果、合理的に解釈できる問題ではない、という考えに至りました。

虐待事例から被害を受けた子どもの心情を想像すると、言葉になりません。同時に、虐待に至ってしまった親の背景を知っていくと胸をえぐられるような気分になります。その人がこの社会の中で消え入りそうになりながら生きてきた痛みや悲しみが、感じられるからです。「自分は誰からも気づかれない存在」と透明人間になる感覚や、「私ばかり大変なのに誰も助けてくれない」と世界が敵に見える感覚が私にも時折あります。それらが激しく増幅したような、いたたまれない感覚を覚えるのです。

虐待は決して肯定されるものではありません。でも、その人が認められたり大切にされたりしなかったことの先にその行為があるのではないか、児童虐待は「人との関わりの中で大切にされ合うこと」つまり「つながり」の欠如によって起きてしまう、構造的問題なのではないか、という仮説にたどり着きました。

こんなに深刻な問題に、そしてそれによって苦しんでいる一人一人に固有の経験や背景がある中で、こんなにシンプルな仮説を提示することに、抵抗感も恐れもあります。ただ、何かを信じてみないと、進みだせない気がしたのです。私たちはこの4年間、当事者や現場で活動する人々から話を聞き、複数のプロジェクトを実施し、解を見つけようとチームでもがき続けてきました。そしてようやくたどり着いたこの仮説は、人が本来もっている優しさや温かさを根底で信じている私たちらしいものでした。だからこそ、信じてみよう。私たちは、昨年の秋に「社会の中に豊かなつながりを育むことにより、児童虐待が発生しにくく、虐待を受けた人が回復しやすくなる社会を目指す」ことを事業方針としました。

そして、たくさんの支援者からこの問題をなんとかしたいという思いを預かっている私たちが、多くの先人たちが努力を重ね続けているこの領域で果たすべき役割は、既にある多くの力を10倍にも100倍にもしていくことだと考えました。まずは地域での事業を進め、中長期的には他地域にその学びを普及していくことや、政策に反映させ全国に波及させることを目指します。

小さなつながりの先に、
私たちのなりたい
社会がある

児童虐待に取り組むということは、自分たち自身の嫌な部分に向き合い、それによって傷ついた人たちの痛みを知り、どんな社会になっていきたいかを願い、歩んでいこうとすることなのかもしれません。私はこの4年間で、「児童虐待の問題を解決せねば」というどこか傲慢な意気込みから、「足はすくむけど、一歩一歩前に進めよう」という等身大の覚悟に、ゆっくりと変化してきた気がします。

「虐待を引き起こし、それを傍観している社会」ではなく「豊かなつながりの中で、誰もが大切にされあう社会」に、私たちはきっとなれる。「なんとかしたい」のは、誰かではなく「私たちの社会」。そして、それをなんとかできるのも私たち一人一人なのだと最近思うようになりました。

今月小学校に入学した息子のクラスに、バングラデシュ人の子がいます。ただでさえ多くの親子にとって大変な子どもの進学で、両親とも日本語が話せないのは不安かもしれないと思い、声をかけてみました。

これは、児童虐待には直接的には関係がありません。でも、私たち一人一人の小さな小さな行動が、小さなつながりを生みだし、やがて私たちのなりたい社会の姿に近づいていくのではないか、と思うのです。

あなと一緒に考えたい!

深刻な問題だからこそ、自分たちを追い詰めたり
責めすぎたりせずに取り組むことが大事なのではないかなと
思うのですが、皆さんはどう思いますか?
一人一人が、その人らしいスタンスと関わりで
取り組めたら嬉しいなって思っています。

特集レポートを読んでの感想、「あなたと一緒に考えたい!」で
考えたことを、下記フォームよりお送りください。

Report of Japan