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date2025.01.29
writer樋山 真希子
いま、観てほしい!18歳で巣立つまでの児童養護施設の日常を描いた映画『大きな家』
皆さんは、児童養護施設にどんなイメージがあるでしょうか?
今回は、2024年12月から公開されている、児童養護施設の日常に密着したドキュメンタリー映画『大きな家』をご紹介します。かものはしが取り組む「社会的養護を経験した若者への支援」をより深く理解していただける作品です。
contents
児童養護施設を巣立ったあとの、こどもたちの現実を知っていますか?
虐待を経験し、児童養護施設などで育ったこども・若者たちは、18歳になると、高校卒業と同時に施設などを出ることがほとんどです。頼れる実家がない多くの若者たちは、経済的な後ろ盾も、ちょっとした相談をする相手も、無条件に頼れる人もいないことが多い状況です。
保証人が立てられず、住む家がなかなか見つからない…
収入は、アパート代や学費等に消え、食費を切り詰める毎日…
職場のちょっとしたトラブルから、トラウマなどの心の傷の再発…
高校を出たばかりの若者が誰にも頼れない不安と孤独の中で、必死に人生を切り開こうとしているのです。
かものはしの活動〜社会的養護を経験した若者への支援
かものはしプロジェクトは、このような若者たちが、出身の児童養護施設や支援団体などとのつながりを持ちながら、安心して巣立つことができるような社会の仕組みづくりに取り組んでいます。若者たちに寄り添う児童養護施設や支援団体がすでに手一杯な中、どのようにしたら若者たちとつながり続けることができるか、色々な方の知見などをもとに、ともに考え実行しています。また、その現場の声を制度に反映させるための政策提言を行っています。
2024年の4月からは、親や家族に頼ることができない人たちをサポートする団体の全国ネットワーク「えんじゅ」の事務局として活動しています。
18歳で巣立つまでの姿を描く、映画『大きな家』
児童養護施設で生活してきたこどもたちは、18歳を超えると退所しなければなりません。
児童養護施設のなかで、こどもたちが実際にどのような生活をしているのか、退所直前にどのような葛藤と悩みを抱えて日々過ごしているのか、その「渦中」にいる思いや、現実を伝えたい。そう思いながらも、プライバシー保護の観点から詳細を伝えることが難しく、もどかしく感じてきました。
映画『大きな家』は、まさに、こどもたちが児童養護施設に来てから成長の階段を上っていく日常の姿と、「退所」の日が迫るその日や、その後の様子も記録しているドキュメンタリー映画です。
18歳で社会に放り出されることの大変さと退所後の支援の重要性について当事者の姿から実感をもって理解をしていただけます。そして、当事者の一人ひとりが退所するまでにどのような日々を重ねてきたのか、その生活の「リアル」を、自分自身が成長を見守る一人として、その場にいさせてもらう感覚で見ることができます。
私たちが直接的に、そして臨場感を持って伝えられない内容だからこそ、特に児童養護施設のこどもたちに関心を寄せている方々に、ぜひ観て欲しい作品です。
なお、「大きな家」は、プライバシー保護の観点から、配信・パッケージ化は予定されていません。こどもたちと、職員の方々の大切な日常の記録は、映画館のみでご覧いただけます。近日公開となる劇場もありますが、上映中の劇場も終了時期が未定のため、少しでも「気になる」と思った方は、ぜひチェックしてみてください。
かものはしスタッフの感想
村田(共同創業者・アフターケア事業部)
児童養護施設でこどもたちがどんな風に過ごしているのかを知ることができるので、児童養護に興味を持たれた方にぜひ観ていただきたい映画です。個人的には、こどもたちの年齢が上がり、不安気に巣立っていく様子をみると落ち着かなくなりました。映画の舞台になっている施設は、全国の施設の中でも、様々な自立のための取り組みをされていて、熱心な職員さんたちのいらっしゃる素晴らしい施設だと思うのですが、それでも卒園後の若者たちの状況が厳しいという職員さんのご発言もあり、誰もが安心して巣立っていける社会を早く作らないといけないと思いました。
五井渕(アフターケア事業部)
ふと涙が出てくる、それもドラマチックとは言えないような場面で、ということが何度もありました。それは、こどもたちが置かれた状況が大変そう、つらそう、ということだけではなく、純粋に「暮らし」や「いのち」に触れたことによる感動でした。そして「こうしてください」という作為・メッセージが手放されている作品であり、観る人によって感じることはかなり異なるようにも思いました。だからこそ、感想を持ち寄って対話をすることで響き合い、そこから何かが始まっていくかもしれないなぁ、とワクワクしています。
古橋(ソーシャルコミュニケーション事業部)
複雑な現実を、こどもたちの等身大の目線でそのまま描いているところに心が動かされました。作品を見る前、私は児童養護施設で暮らすこどもたちに対して、固定的なイメージを抱いていたことに気づかされました。複雑な現実から目を背け、単純な理解に安易に飛びつくのではなく、子どもたちの心の奥底にある複雑な感情や、彼らが直面する現実の複雑さをそのまま受け止めることの大切さを、この作品は教えてくれているような気がします。安易に言葉で言い表し、レッテルを貼って、楽になるのではなく、今後もその複雑さを理解しようとする姿勢を忘れずにいたいなと思います。
イベントに参加しませんか?
映画『大きな家』をご覧になった方、またこれから観てみようかなとお考えの方へ、児童養護施設を巣立ったこどもたちの現実について、さらに深く知ることができるイベントを企画しました!
映画をご覧になった後、こんなふうに感じた方も多いのではないでしょうか?
・誰かと感想を共有したい
・「児童養護施設」や「児童養護施設を巣立ったこどもたち」についてもっと知りたい
・映画の内容を受け止め、自分にできることを考えたい
私自身、公開日に一人で劇場に行きましたが、観終わった後、「誰かと一緒に観ればよかった」と思いました。こどもたちの人生に触れ、心に響いたシーンや施設の先生方から感じた愛、そして自分と重なり合うような感情を、誰かと共有したい思いが溢れてきました。
このイベントでは、皆さまと感想を共有したり、児童養護施設を巣立ったあとのこどもたちの現実に目を向け、私たちにできることを一緒に考えたいと思います。
当日は、事業担当スタッフから、「児童養護施設などを出た若者の巣立ちを応援するアフターケア事業」の説明や、日々の活動の思い、実際のエピソードなどをお伝えさせていただきます。
ぜひ、多くの方のご参加をお待ちしております。
writer
樋山 真希子ソーシャルコミュニケーション事業部
小さい時から「平和ってなんだろう?」と考えていました。中学生のときにNPOの存在を知って以来、ずっとNPO職員に憧れを抱いていました。大学生の時に観た「闇の子供たち」という映画が忘れられず、人身売買問題に真っ直ぐに向き合うかものはしに感銘し、2016年に入職しました。現在は広報と会員コミュニケーションを担当しています。知らない街の町中華に行くことと、ハムスターの飼育にはまっています。