女性の自立―仕方ない、を乗り越えるたくましさ―
date2017.11.2
writer亀山 菜々子
いつもあたたかいご支援ありがとうございます。
今回は、年次報告書2016より、カンボジア事業部の亀山菜々子が、
コミュニティファクトリーの女性について語った記事をお届けします。
2016年度年次報告書はこちら
家族の中の関係性
ライフスキルを身につけ一人の女性として自立すること。
その意義は仕事ができるとか、良いお給料がもらえるとか、
そういう話ももちろんそうなのだが、何よりそれを基に、
女性たちが持てる可能性を存分に開花させ、
自分の人生を切り開いていくことにある。
それはときに、家族の中の関係性においても発揮される。
「父親がタイに行けというので、ファクトリーを辞めるかもしれない」
スレイロット19 歳。
スラっとして大人びた顔立ちの中に
まだあどけなさが残る彼女は7月にファクトリーに入社。
明るく人懐こく、勉強も大好きな彼女は、
最初は緊張で怖気づく場面がよく見られたが、
トレーナー陣が都度に口にする、
「間違ってもいいんだよ!クラハーン(勇気を持って!)」という
掛け声に励まされて、積極的に発言をするようになっていった。
一方で時折ふっと見せる悲しそうな顔、
特定のスタッフには懐くが一定のメンバーには
どことなくぎこちない態度を取る姿に少し危うさを感じていた。
※写真の女性は本文とは関係がありません。
そんな彼女はある日、スタッフに相談を持ちかけてきた。
父親との関係のことだ。
父親は機嫌が悪いと酒を飲み、暴言を吐き散らす。
ある時期から、とにかく彼女にタイに行って仕事をするように迫っていた。
カンボジアでは親は神様よりも偉い位置にあると言われるような存在。
良くも悪くも両親の指示に従うべきという風潮がどこかにある。
ファクトリーに入る前に同じように親に出稼ぎを迫られて行った先では、
結局お給料はもらえずじまい。
大好きだった学校を辞め、
3ヶ月、親元を離れて一生懸命働いたのに何も手にできなかった。
悔しくて悲しくて今でもそのときのことを話すと涙ぐむ。
行末も分からないタイでの仕事で、同じような目に合うのは絶対に避けたいし、
どう考えても彼女のポテンシャルを持ってしたら
ファクトリーで学び、メキメキ力をつけ、良いキャリアが開ける可能性が多いにある。
スレイロットの挑戦
「私は行きたくない。でも父親がいうから仕方ない。」
そう話す彼女に、私たちチームは悩みながらも
まず父親ときちんと話してみないかと提案した。
ライフスキルトレーニングで学んだ人とのコミュニケーションや、
アンガーマネジメントで習ったことを使ってみる。
相手の話をまずは受け入れて、自分の意志を伝えること。
怒りの感情が湧いてきても7秒待って、自分の思いと向き合って話すこと。
他にも父親の機嫌の良い時を見計らう等、
色々な戦略を一緒に立て、何回でもトライしようと話した。
とはいえ親との関係性という閉鎖的な空間で、ひどいDVに走る可能性も十分にある。
彼女を後ろから見守りながらも、いざというときのサポートも考えながらの試みだった。
彼女は懸命にトライし、毎日報告にきた。
やっぱり話せなかった、ちょっと話してみた、話したら怒られた、
もう一度やってみる...
何回も悩みながら繰り返し、
最終的に、父親からタイ行きを強制されることはなくなった。
「お父さん、理解してくれたみたいです。」
その過程で彼女はとても自信をつけたように見えた。
太刀打ちできないと思っていた状況を、彼女の行動で変えたのだ。
人との関係、特に家族という独特な関係性は
これからも構築・改善し続けていくものであるが、
今回の件で彼女が壁を乗りこえられたことは今後に大きく生きるだろう。
※写真の女性は本文とは関係がありません。
仕方ない、を乗り越えるたくましさ
ファクトリーの女性たちを見ていて、これまでの人生で
「仕方ない」で諦めてきたことがたくさんあったのだろう、
と思うことが多々ある。
特に親と子ども、妻と夫、兄弟、男性と女性...
無意識のうちに確立される関係性の中、
対等な立場で家族の意思決定に参加すること、
自分の意志を伝えること、
それは彼女たちが自分らしい人生を送る中で非常に大切なものであると考える。
仕方ない、というマインドブロックを乗り越えて、
自分が動けば変えていけること、
そんな自己効力感を胸に前進してほしいという思いを込めて、
日々のトレーニングづくりに励んでいる。
※写真の女性は本文とは関係がありません。
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writer
亀山 菜々子カンボジア事業部ソーシャルエンパワメント部門マネジャー
2008年よりインターンとしてかものはしプロジェクトで活動を開始。大学院卒業後、2012年よりカンボジア現地駐在。ファクトリーの女性たちのケアやトレーニング等を担当。