インドで感じた無力感と前を向く力
date2014.11.7
こんにちは。
かものはしプロジェクト、インド事業部にて社会人インターンとして働く外崎恵子です。
日々現地の問題に携わる業務をする中で、
少しでも「現場が知りたい」と思い、9月にインド現地出張へ同行しました。
ところがインドから帰国後の私は、
あまりの絶望感と無力感に襲われ、何もやる気が起きませんでした。
辛すぎる現実に蓋をしてしまおうと思いました。
でも、その蓋は閉められることなく、私の心をどんどん蝕んでいきました 。
この無力感が一体どこから来たのか、出張中の話をします。
※写真はイメージです
私たちは、マハラシュートラ州内にある"とある場所"へ向かいました。
なぜその場所を訪れたのかというと、
そこは現在かものはしが活動している西ベンガル州―マハラシュートラ州ルート上にあり、
かつ、その地域の赤線地帯(買春が横行している一帯)
に未成年が多いという情報を何度か聞いていたからです。
その赤線地帯の状況は、私の想像以上に深刻でした。
3000〜4000人の少女・女性たちが働いており、
またその内40%が18歳未満であると言われています。
10代前半の女の子たちの買春も行われています。
さらに深刻なのは、
NGOが多く存在しているムンバイやコルカタから、直接介入するには地理的に遠いことから、
その赤線地帯で活動するNGOがほとんどいないことです。
そんな状況下でも、そこに拠点を置きながら、
売春に従事している女性たちの子どもを預り学校に送り出す活動や、
女性たちに職業訓練を実施しているNGOがありました。
私たちは彼らを訪問しました。
私たちのパートナー団体の車でその赤線地帯に向かう途中、
明らかな異変を感じました。
(あれ...どうして...?)
私たちの車を見るなり、
道に出ていた子どもたちは走り出し、建物の中に姿を消したのです。
エリア全体から警戒心を感じました。
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NGOの建物に入ると、
20人程の女性たちがお花を用意して私たちを迎え入れてくれました。
彼女たちは、その赤線地帯の売春宿で働く女性たちでした。
「今いくつ?」
「子どもはいるの?」
私はたわいもない話から少しずつ彼女たちとコミュニケーションをとっていきました。
「どこから来たの?」
こんな質問も、普通であればなにげない会話の1つです。
しかし、彼女たちにとっては、故郷であると同時に、
だまされて売春宿へ連れて来られた原点でもあり、
私たちにとっては、ここへ売られる女性たちの供給地を知る手がかりでもあります。
NGOの壁に飾られていた一枚の絵。
"笑顔を絶やさないように"。こんなメッセージが、少し切なく感じられた。
彼女たちと打ち解け始めたころ、30代半ばぐらいの1人の女性が来ました。
初めは彼女も被害者の女性なのだろう、そう思いました。
しかし、話を聞いていくうちに衝撃の事実を知りました。
彼女は、売春宿の管理者だったのです。
さらに、彼女の売春宿には、
複数の未成年の女の子たちが隠されているとのこと。
恐怖、怒り、悲しみ、苦しみ...
様々な感情が自分を取り巻き、頭で理解することの範疇を越えていました。
救いたい、
救いたい、
救いたい。
でも、私はその女の子たちを救えませんでした。
その場で売春宿管理者の女性を罵倒することも、
その女の子たちを無理矢理助け出すことも、やろうと思えばできたかもしれません。
しかし、私があの場で感情のままに動いてその女の子たちを救出すれば、
売春宿管理者の女性は逆上して何をするか分かりません。
警察に通報したとしても証拠は十分ではないし、
現場で働いている人たちには命の危険が及ぶかもしれない。
私の軽率な言動が、現地NGOやかものはしプロジェクトのスタッフが
今まで築きあげてきたものを壊してしまうかもしれない。
さらには、その売春宿管理者の彼女は、
その地域にいる何千人もの加害者の1人に過ぎないというのが現実なのです。
でも、何を言っても、
あの時の女の子たちを救えなかったという事実は変わりません。
彼女たちにこの先降りかかるであろう痛み、苦しみ、絶望を想像すると、
自分の無力さにただ泣くしかありませんでした。
「泣いていても始まらない」
頭でそう分かっていても、
あの時、女の子たちを救い出すことができなかった現実が何度もフラッシュバックされ、
この無力さは誰にも分かってもらえない、そう思っていました。
今も宿に居るであろう彼女たちを想うと、ただ悔しさがこみ上げた。(※写真の女性は物語には関係ありません)
そんな時、10月上旬にかものはしのインド現地パートナーNGOのサンジョグが来日しました。
サンジョグの代表であるウマ氏に、私が自分の無力感について伝えると彼女はこう言いました。
「私もいつも無力感を感じているわ。
でも、解決することができなかった 問題はずっとあなたについて回る。
どこかで、断ち切らなきゃいけないのよ。」
無力感を感じて、何もできない自分を認めて、
その上で何ができるのかを考えていかないと前には進めないのよ、
ということなのだと私は理解しました。
私が現地で直面したこの現実は、
伝えないと誰にも知ってもらうことはできません。
そして今の私にできることは
「この問題を誰かに共有していくこと」
次第にそう感じるようになりました。
私は、目の前で救えなかった彼女たちが、必ず救い出される世界を作りたいです。
そのために、かものはしでできることを、
そして今の私にできることを、この瞬間も取り組んでいきます。
大学卒業後、IT企業で6年間SEとして勤務。大学生の頃から国際協力の分野に興味があり、思い切って退職。現在は、インド事業部で社会人インターン中。