自立のその先に
描くビジョン「ライフスキル教育は、子どもが売られない世界を
つくるために必要な基盤となるはずだ」
※このレポートは、
2016年度年次報告書の記事を再編集したものです。
Report of Cambodia
青木 健太Kenta Aoki
共同創業者・理事長
2002年、村田、本木ととも団体を創業しました。当初IT事業を担当し、大学も中退してしまいました。2009年からカンボジアに渡り、貧困家庭出身の女性たちを雇用するコミュニティファクトリーを運営しています。2018年からはNPO法人SALASUSUとして独立し、現在は教師教育を通じた公教育改革にカンボジアで取り組んでいます。2022年からかものはしプロジェクト理事長も兼務。仕事柄教育の論文を読んだり書いたりすることがあるので、あのとき大学をちゃんと卒業してれば良かったと思いつつ、日々頑張って学んでいます。最近娘と遊びに行くのが楽しみです。
カンボジアに残る問題とは
私たちが2002年に団体を始めたときと今のカンボジアはすっかり違う国になった。
10年以上にわたって7%の経済成長率が続き、
国全体で現在12の経済特区が稼働し、
海外企業が進出、雇用は確実に増えている。
そもそも2002年の事業開始以来、
NGOとして雇用をつくらなければならないと考えてきた僕たちも、
徐々にNGOに求められる役割が変わってきていることを感じていた。
ある忘れられない台詞がある。
知り合った大企業の方から
「青木君、年末までに5,000人採用したいから、
毎月100人でも人を紹介してくれないか。きちんと雇用するから」
という話を聞いたときである。
当時一人でも多くの人を雇おうと四苦八苦していた僕たちにとって、
まさに時代の変化を実感する瞬間であった。
仕事そのものが企業によって作られ、
子どもが売られる問題が解決に向かってきている。
その一方で、自分たちの活動を振り返り、
ともに働いていた村の女性たちとの対話を通じて、
自分たちの経験を活かして
どうカンボジア社会に貢献することができるのかを考え続けた。
カンボジアの首都プノンペンの様子。
発展するカンボジア社会の中で、かものはしはどのような役割を担えるだろうか。
すべての人に
「前向きにワクワク生きる」人生を
そして、その一つの答えが、ライフスキルであった。
それに気づくきっかけになったのは
コミュニティファクトリーを卒業して企業に就職したある女性に起きた出来事だった。
彼女は、都会の工場で働きはじめ、給料も農村の平均月収にくらべれば
4倍にもなる良い仕事につけたと僕たちは喜んでいた。
しかしそんな彼女はたった4日でその工場を辞めてしまったのだ。
都会で住む家がみつけられない、一緒に働く人と仲良くできない、
といった問題を解決することができず農村に帰ってきてしまった。
新しい環境に慣れ、人との関係を作りながら、問題を解決して前に進む力、
それが十分に育っていないとカンボジアの発展の恩恵を受けることも難しいのだと
僕たちが思い知らされた苦い経験だった。
彼女は幸いまたコミュニティファクトリーで働くことができたが、
果たして他の人はどうか。
そうして僕たちは、その力をライフスキルと名付け、
それを身につけ、「前向きにワクワク生きる」人生を
すべてのカンボジアの人たちが送れるようになってほしいと考えた。
それが僕のライフミッションであると
確信できた大きな出来事であった。
毎日の給食を通じた栄養トレーニングは女性たち同士が教えあう。
コミュニティファクトリーと
SALASUSUを通して描くビジョン
今コミュニティファクトリーは、
働く場でありながらもより学ぶ場へと変化し、
"ものづくりを通した人づくり"をおこなっている。
そこで、女性たちが身につけるのは、
社会へ出て活躍するための力、ライフスキルだ。
人は、教育やそれまでの環境での積み重ねによって
自信や自尊心を身につけ、
初めて問題に対して頑張って解決することを覚える。
初等教育も満足に受けられず、日雇いの仕事に従事してきたたために、
そういった機会に恵まれなかった彼女たちは、
コミュニティファクトリーで働きながらライフスキルを学ぶことで
自信や自尊心を育て、自らの知恵で生きていく力を得る。
そして彼女たちの成長の物語がSALASUSUの商品には込められている。
手にとっていただいたお客さまには、
SALASUSUの商品を通して、作り手の女性たちのエネルギーを感じてもらいたい。
SALASUSUが売れるということは、より多くの女性に
ライフスキルを身につける機会が提供できるということだけではなく、
少しずつ彼女たちが生きやすい世の中をつくっていくという挑戦でもある。
大それた言い方だけれども、資本主義をもう少し柔らかくしていく挑戦なのだ。
資本主義は一人一人の物の買い方で作り上げられている。
もし作り手の女性たちのエネルギーが
買っていただいたお客様を励ますことができたらどうだろうか。
SALASUSUのトートバッグは単なるトートバッグ以上のものになり、
商品の向こう側になにが起きているのかを考えて買うことのよろこびを生み出せる。
そしてそれが今後のものの買い方が10回に1回でも変わるきっかけになれば、
それは企業を変える力となる。
つまり、人の成長に寄り添う企業の商品が買われることが増える。
そうすれば作り手の成長に力を割く企業が増え、
良い職場が増えていくきっかけとなる。
作り手の成長と合わせて企業の変革をもたらすことができれば、
少しでも資本主義をやわらかくすることにつながっていくだろう。
一朝一夕でできることではないが、SALASUSUにそんなビジョンを描いている。
そのためにSALASUSUでは、商品を届けるだけでなく、
サービスを提供することも考えている。
このバッグ一つにSALASUSUの思いがぎゅっと込められている。購入はこちらから
例えば、日本でのワークショップ。
買い手が作り手の女性たちに共感できるきっかけを提供する
ワークショップができれば、作り手の想いや苦労を
自分に引き寄せて考えることができるようになる。
買い手も作り手もこの社会の中でともに頑張っている仲間であると思えたとき、
作り手の女性たちのエネルギーがより買い手に届きやすくなっていく。
同時に企業の変革や学校教育の変革にも団体として積極的に関わっていく。
私たちが開発し提供しているライフスキル教育はカンボジアのすべての人、
いやもっと多くの国で提供されていくべきものになる可能性があると信じている。
今まさに公教育改革のプログラムをカンボジア政府に提案しようとしている。
もしライフスキルが育まれる場が少しでも増えれば、
より前向きに人生をワクワクしながら生きる人たちが増えていく。
SALASUSUとライフスキル教育のチャレンジ、そしてそのすべての始まりの現場であり、
開発の拠点となるコミュニティファクトリー。
そこから僕たちは新しい物語を紡いでいこうとしているのだ。
なぜ、「かものはし」を
離れるのか
カンボジアでは、すでに子どもが売られる問題は解決に向かっている。
その中で僕たちは新しいビジョンに向かってより自由に大きく進んでいきたい、
それが別組織にする最大の理由だ。
ただ、全く赤の他人になるわけではなく、
兄弟や、同じ村や組にいるような、そんな関係を築いていきたい。
ライフスキル教育は一人一人の成長や成熟を助ける社会の基盤である。
それは子どもが売られない世界を作るには必要な基盤となるはずだ。
だから僕はかものはしの理事として残りたいと考えているし、
人の交流はなくならないだろう。
2つの団体がそれぞれの役割を果たすことで、
カンボジア、そしてインドにより良い社会を作っていけるような
そんな新しい関係が築けるのを楽しみにしている。
左から、経営チームの一員Vuthikと共同代表の本木、ファクトリーで働く女性と青木。
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