Report of India
清水 友美Tomomi Shimizu
インド事業統括・パートナー
インド事業部の清水です。年の瀬が近づいてまいりました。コロナの感染者数が増え、これを読んでくださっている方々の中にも、様々な形で影響を受けていらっしゃる方がいらっしゃるかもしれないなぁと思いながら、この文章を書いています。必死に皆の命を守ろうと、ご自身の命を削って働いている皆さま、苦しいところに立っている皆さま、私にできることは祈ることくらいしかできませんが、たくさんのこみあげてくる感情とともに、皆さんのことを想っています。
今年の7月に、かものはしから皆さまに寄付のお願いをさせていただきました。その際、本当に多くの皆さまから、私たちの想像をはるかに超えた870人もの皆さまから、総額16,458,148円のご寄付を、たくさんのメッセージとともに、お預かりしました。この場を借りて、心よりお礼申し上げます。
かものはしに、皆さまの大切なお金を預けてくださり、そして、インドで子どもや女性たちが売られる問題に一緒に心を痛めてくださり、ありがとうございます。皆さまからお寄せいただきましたコメント、全て拝見させていただきました。
たくさんの方々が、応援してますよ、一緒に頑張りましょう、何らかの形で役に立ててください、とおっしゃってくださったことは、暗中模索で走り続けていた私たちに大きな希望を与えてくださいました。
コロナ禍の経済不安のあおりを受け、財源の見直しを迫られる財団が多い中、かものはしがこんなに多くの皆さまに応援いただき、その結果としてインドでこれまでと同じように、これまで以上に、サバイバーリーダーたちとともに優しくて強い社会を作る活動を続けられましたことに、かものはしインドチーム及び、パートナー団体、サバイバーリーダーたち一同を代表して、心より深く御礼申し上げます。ありがとうございました。
2020年7月までを緊急救援期としましたが、思った以上にコロナの影響で失業率が高止まりし、経済活動の再開が見込まれないため、西ベンガル州においては11月末まで、アンドラプラデーシュ州においては12月末までサバイバーへの追加支援を行うことを決定しました。結果、2020年5月~12月までの8か月間で、のべ535名のサバイバーたちへ現金、食糧、その他生活必需品の現物支給支援を実施しました。
また、コロナをきっかけに、全てのミーティング(政府とのアドボカシーミーティング含む)が対面系コミュニケーションから非対面系コミュニケーションへ大きく移行したことを受け、サバイバーリーダーたちのリーダーシップアクション継続のためにはスマホとzoomアプリがマストであること、またそれにあわせてパートナー団体のリモートワーク体制強化をする必要があることから、緊急支援金額の一部をインフラ整備(携帯電話158台、コンピュータ15台、その他付属機器14台、zoom6アカウント)に使用させていただきました。
支給されたスマートフォンを手にするサバイバーリーダー
また、この緊急救援期に体力と心をすり減らしてもなお働き続けたソーシャルワーカーたちのメンタルヘルスサポートにも、少額ですが一部お金を使わせていただいております。これらすべてを総計し、2020年11月末時点で、1,245万円の緊急支援を完了しました。皆さまからお預かりしたお金は、全てが緊急支援に使われているわけではございません。かものはし全体の資金調達がコロナの影響を受けることが見込まれていたため、インドや日本で行う事業を滞りなく行うためにも使用させていただいておりますことを、ご報告させていただきます。
Utthanサバイバーリーダーグループが毎月かものはしに送ってくれる月次報告書を読んだ感想を、コロナ禍が始まった4月~8月分をまとめて送りました。そのお返事としてビデオレターをいただきました。私宛のメッセージになっていますが、このメッセージはサポーターの皆さま全員への御礼でもあるので、共有したいと思いました。
この8か月を振り返ると、みんな一丸となってよく走り抜けたなぁとちょっと涙が出てきます。3月末の全土封鎖から5月末のサイクロン災害までは、とにかく目の前で起きているパニック的事象に翻弄されながらも、迅速な意思決定とアクションで餓死者を出さない、サバイバーを危険な状況におかない、人身売買の被害にあう人を出さない、という目標を立て、アドレナリン全開、皆が緊張感につつまれながら着実に歩を進めました。
そのころから、緊急支援で食糧配給だけしていても焼け石に水、彼女たちの脆弱性は変わらないままだと気づき、パートナー団体はシステム介入を始めました。特に大きかったのは、食糧配給カードを持たないセックスワーカーの人たちが立ち上がり、州政府に働きかけたことにより、通常、政府支援の対象外であるセックスワーカーの人たちが公的支援を受ける素地ができたことです。また、サイクロンの被害を受けたサバイバーに州政府の災害お見舞金が行き渡るるよう、粘り強くサバイバーリーダーたちが働きかけたおかげで、サバイバーだけでなくコミュニティで被災した人たちへも政府のお見舞金が届きました。
かものはしは、財源の確保、緊急支援ニーズ調査、情報システム(MIS)の構築と、データを使ったアドボカシー戦略の一助となる、というところに役割をおき、かものはしインドチーム10人一丸となって本当によく働きました。家族と仕事の境界線にぎりぎり折り合いをつけながら、時に大幅にメンタルヘルスの調子を崩すメンバーが続出したこともありましたが、泣きながら、怒鳴り合いながら、たくさんの不安や悔しい気持ちを明日への希望にみんなで変えて、何とかここまでやってきました。途中、ひとりのチームメンバーが、様々な要因はあったものの、こころの調子を大幅に崩し、退職せざるを得ない状況に追い込まれてしまったことがありました。2020年、私はたくさん涙が出てきましたが、彼女の退職経緯は私の心を大きく揺さぶりました。
Tafteesh事業の戦略的意思決定をするメンバーたち。最近実施したzoom会議より。
最近、とある方がお亡くなりになりました。その方は、私がインドでこの8年ずっとパートナーとして働いている人のお父様でした。直接お会いしたわけでもないのに、その方が亡くなったことで、私は堰を切ったように涙が止まらなくなり、感情が溢れてきてしまいました。それを感じたインドチームの一人が、「もちろんそれは悲しいけれど、ともみは何がそんなに悲しいの?」と聞いてくれました。私がお慕いしているコーチの方が、「涙が出るのは、何かが流れ出ていっているのかもしれないね。それは何でしょうね」と問うてくれました。たくさんの言葉にならない感情が溢れている彼にかける言葉が見つからず、せめて抱きしめることくらいしかできないのに、この環境ではそれすらもできない悔しさ。一緒に走り続けているチームの仲間はみんなとても大切なのに、言葉というものを介した瞬間、それがすっと手からこぼれ落ちてしまうような伝わらない切なさ。ちょっと前まで目の前に確かにあった命が、すっと消えてなくなる、永遠の、本当にもう二度とその人に会うことができない切なさ。これまでの8か月間の蓄積したたくさんの感情が、そういったたくさんの切なさに背中を押されて、堰を切ったように流れ出たのかもしれないなぁと思います。
認知機能的には、私は今日も元気ですし、右から左からあふれてくる仕事をさばいていくだけの気力はあります。でも、コロナがやってきて、世界の「あたりまえ」の形がものすごいスピードで変わっていて、それまであった「あたりまえ」を悼む余裕さえ奪われている。思った以上に、それはボディブローのように効いていて、きっとそれは私一人ではないだろうなぁと思っています。
インドも日本と同様冬に入りました。皆さんのイメージにはないかもしれませんが、デリーなどインド北部は東京と同じくらいの気温まで下がることがあります。西ベンガル州でも、この時期にフィールドへ出たら、みんなマフラーして、毛糸の帽子をかぶっていて、インド服(Sarwar Khamis)の上からトレンチコートを来ていただけの私はものすごく寒かった思い出があります(見かねた人たちが洋服を貸してくださいました)。
インドのコロナ感染者数は、年明け2月に次のピークがくると言われており、私はそれを思うと今から暗澹たる気持ちになります。すでにパートナー団体の配偶者や両親のレベルで、コロナで命を落とした人たちがかなりの割合で出ています。私たちがずっと働いてきているサバイバーリーダーたちや村の最前線で過酷な現実と闘い続けているソーシャルワーカー、私の大切なチームメンバーにも、今度こそ、それが起きない保証はない。そんなことが頭の片隅をいつも占めている、今日この頃です。
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清水 友美Tomomi Shimizu
インド事業統括・パートナー
2011年から2年間のインド駐在を経て、2013年7月からかものはし東京事務所勤務。大学院卒業後、国際機関や人道支援機関で開発援助事業に携わる。森と温泉が好き。