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皆さまに届けたい、社会的養護を巣立った若者の「声」 〜緊急支援時のインタビュー〜

date2021.5.26

こんにちは、ソーシャルコミュニケーション部の樋山です。

かものはしプロジェクトの日本事業では、2度目の緊急事態宣言時(2021年1月)に、一般社団法人Masterpiece(マスターピース)という団体と共同で社会的養護を巣立った若者に対して緊急支援を実施しました。(緊急支援についての記事はこちら

「社会的養護」とは、保護者がいなかったり、親から適切な養育を受けられない子どもたちを施設や里親家庭などで社会が育てる仕組みをいいます。日本には、社会的養護下で育つ子どもたちが約4万5千人います。そして、彼・彼女らの多くは、18歳になると、施設や里親から卒業し、独り立ちすることを求められます。

 

今回の緊急支援は「社会的養護出身の29歳以下の若者かつ2021年1月の緊急事態宣言を受けて減収された方」を対象として、109名の方にサポートを実施しました。(103名に2〜5万円の給付、79名に食料サポートを実施)

その中で、今回4名の当事者の方にインタビューをすることができました。自分のストーリーを伝えてくださった4人の声をそのまま、インタビュー形式にて皆さまにお伝えします。


photo by Shutterstock

 

【あやこさん(仮名)19歳・児童養護施設出身】

ー今回の若者緊急基金に応募をしたとき、何に一番困っていましたか?

給付金を受ける前に一番困っていたことは食事でした。高校を卒業してから正社員として働いているのですが、給与が低く、一人暮らしも初めてで十分な知識がない状態で家賃の高い家を契約してしまったので、以前から食費は削って生活をしていました。

ー今回の支援は実際にどんなことに使いましたか?

少しでも栄養素の高いものを食べたかったので、食費にあてました。1〜2ヶ月は食費をまかなえたと思います。

ー社会的養護を巣立った若者が直面する問題とは、どのようなものですか?

児童養護施設を出てから、相談できる相手がいません。家族とも全く連絡をとっていません。通っていた高校が進学校だったので、就職している友達はゼロです。施設のときに仲が良かった友達も、施設を出てからは家庭に戻ったので、正直、帰る場所があることがうらやましいです。

巣立ってから直面する「孤独」という問題は大きいと思います。相談する人が誰もいない、ということが一番辛いと感じます。

ーこの問題について、何も知らない人にこれだけは伝えたいっていうことはありますか?

私は、言葉による虐待を受けてきました。でも、当時は暴力を受けていないから虐待を受けているとは思っていなくて、誰も助けてくれないと思っていました。小学3年生のときに、学校で月に一回「家で大変なことはないですか?」というアンケートがありましたが、虐待というものが具体的にどういうことなのか全く知らなかったので、そのときに気づくことができませんでした。そして、その後、私は施設に入る直前に自殺未遂をしてしまいました。

もし、あのとき、虐待の専門家がちゃんとどういう行為が虐待なのか、こういう行為は言葉の暴力なんだよって教えてくれたら、助けてという声が上げられたのに…と思います。児童養護施設に入る子って、小さいときに親を亡くした子とか、身体的な虐待の経験がある子とか、そういう子が多いと思います。でも、行動だけじゃなくて、精神的なもの、言葉の暴力で入所する子もいるんだよっていうことを多くの人にわかってほしいです。


photo by Shutterstock

 

【ひろしさん(仮名)19歳・里親家庭出身】

ー今回の若者緊急基金に応募をしたとき、どういう状況でしたか?

沖縄から資金を持った状態で2020年の10月に福岡に来ました。音楽の専門学校で歌を勉強するためです。学費と生活費をバイトでまかなう計画を立てていたので、すぐにバイトを探しましたが、12〜14回くらい面接を受けて全て落ちました。貯金はあったものの、学費に充てていたので、2ヶ月ほどで資金が危なくなりました。

コロナの打撃は大きかったです。フードデリバリーの配達員もやったのですが、マスクをつけようが、消毒しようが、結局人との会話が必要で感染リスクが高いと感じ、こわくなってできなくなり、やめました。

ー支援のインパクトを1〜10の数値で測るとしたら、どのくらいのインパクトでしたか?

自分は完璧に「10」です。1000円でもいただけたらほんとうに助かると思っていました。支援してくださった方々にただただ感謝しかありません。沖縄にいたときも、ラジオ番組に出て歌を歌ったことがありました。そのときに、シーサー職人の人が自分に1万円寄付をしてくれたのですが、申し訳ない気持ちもありつつ、「がんばってください」という想いが込められているので、とてもありがたかったです。支援は滞納していた光熱費と未払いだった携帯料金をまかなうことができました。

ーどのような支援があったら良いと思いますか?

学生に対して、国がもっと動いてほしいです。1回目の緊急事態宣言のときのように、一律10万円とか払ってほしいです。厳しい人はたくさんいるはずです。そういう人たちにお金を配るということをちゃんとやってほしい。こちらは生きるか死ぬかの境目なのに。テレビを見ていても政府が言っていることに対して腹が立ってきます。ぶっちゃけ、国が動かないと変わらないと思っています。

自分が大変な状況になってから「コロナ・学生・支援金一覧」とネットで調べて、ヒットしたものを1から見ていったり、LINEをみたり、Twitterをやったり、どこに支援情報があるかを見ています。食料の支援があったら、申し込んでいます。ゲームしている時間があったら、検索したほうが良いと思っています。


photo by Shutterstock

 

【けんたさん(仮名)25歳・児童養護施設出身】

ー今回の若者緊急基金はどのように使いましたか?役に立ちましたか?

就労移行支援(※)で紹介していただいた企業の実習先が片道1000円はかかる所でして、お昼ご飯代と合わせるとすぐに1万円になってしまうので、主に就職活動の交通費に使わせていただきました。あとは、パズルが趣味なのですがそれにも充てさせてもらいました。パズルでストレスを発散させています。卒園してから7年くらいになるんですけど、児童養護施設退所者向けにやっている支援というのを初めて知ったので、食料や資金援助をいただき、非常にありがたいと思っています。

※就労移行支援
就労移行支援とは、「障害者総合支援法」という国の法律に基づいた就労支援サービス。一般企業への就職を目指す障害のある方を対象に就職に必要なサポートを行う。

ーマスターピースさん以外に、支援を受けている団体はありますか?

過去はありましたが、今はありません。過去支援を受けていた団体は、今住んでいるところからとても遠いところにあるので、行くだけでも交通費がかかってしまうからです。

ーこれまでに行政支援は受けたことがありますか?

就労移行支援のほかに、自立支援医療制度(※)を利用しています。通院を月に一度しているので、その費用を行政に出してもらっています。なので、児童養護施設退所者向けの支援というよりは自分の病院や就職活動に関わる支援になります。

※自立支援医療制度
自立支援医療制度とは、心身の障害を除去・軽減するための医療について、医療費の自己負担額を軽減する公費負担医療制度のこと。

ー社会的養護を巣立った若者が直面する問題のなかで、深刻だと思うことは何ですか?

精神的なケアとか、資金的な負担がやはりすごく大きいと思っています。周りの人の中にも、行政の手続きを知らない、生活保護の制度を知らない人もいます。現に自分の後輩で1~2か月ホームレス状態になってしまった人もいました。

私がいた児童養護施設には、ある支援団体から、独り立ちをするための手引書みたいなものが年に1度寄付されていました。でも、他の施設はないところもあると思います。行政から生活にいたるまでの本が1冊でも配られると良いと思います。

でも、児童養護施設を巣立った若者からすると「正直、生きていく上で何もかもが足りていない。もしくは知らない…」という状況だと思います。自分としては資金、行政、精神的なケアが必要だという3つを挙げさせていただきたいと思います。


photo by Shutterstock

 

【みどりさん(仮名)20歳・児童養護施設出身】

ー今回の若者緊急基金に応募をしたとき、何に一番困っていましたか?

コロナになってから介護の仕事がバタバタと忙しく、買い出しに行く時間がないくらい疲れていました。また、その時期に摂食障害の症状も出始めていて、食べ物を自分で買ってきて食べるというよりも、誰かに送ってもらったほうが食べられるかなと思って食料支援をお願いしました。また、いただいた給付金は貯金しました。何かあったときのためです。なかなか介護の仕事ってお給料が少なくて、貯金ができないんですよね。すごく好きな仕事なのでやめる気はないんですけど、お給料が少ないです。

ー社会的養護を巣立った若者が直面する問題とは、どのようなものですか?

働きはじめて思ったのは、「大人に対する不信感」がすごく強くて、社会人1年目は仕事だから周りと協力して働かないといけないのに人を頼れないということがありました。頼ったりしたら、どういう反応をされるんだろう、と思いました。

良い大人に出会ってない人からすると、一回注意されたら、もう次に踏み込めなくて、それで仕事を辞める人が多いのではないかと思うんですよね。児童養護施設を卒園した人って仕事長続きしないことが多いと思います。怒られ慣れていない人が多いんだと思います。施設での関係性では職員と子どもなので、他人から怒られても「別に」と思う人が多いと思うんです。実の親から言われるのと、他人から言われるのって違うと思うんです。

ーこの問題について、大人や社会に言いたいことってありますか?

児童養護施設に入っている子どもが悪いわけじゃないんだよと言いたいです。「かわいそうな子」とか私たちに問題があって施設に入所していると思っている大人が多いと思っていました。

高校生のときに友達だと思っていた人に「施設にいるんだ」って言ったら、「普通の家の子だと思ってたんだけど…。」と言われて次の日から無視されました。高校生の私には、とてもショックでした。偏見を無くしたいですよね。児童養護施設に対してマイナスなイメージを持っている人が多いと思います。…「かわいそう」って思いますよね?その考えを無くしたいです。

社会に出てからは、職場の人に親のことを聞かれたときにすごく苦痛でした。私は親の現状、いま何をしているのか、年齢もちゃんと知らなかったので、それに答えることがとても苦痛でした。社会に出てから親のことを聞かれても、「あ、私、養護施設で育ったんですよね!」ってポンって言えるような感じになりたいし、そんな社会であってほしいです。


photo by Shutterstock

 

あとがき

知らない街ではじめての一人暮らしを経験した時、ひどい風邪をひいて動けなくなったことがありました。その時、仲良くなったばかりの友人が栄養飲料と数日分の食料を買って家を訪ねてきてくれました。人が来てくれたことが心強く、あたたかくて涙がぽろっと流れました。インタビューを聞きながら、ふとその体験を思い出しました。

また、私は社会人になってから無職を経験した時期が2度ありましたが、実家に戻る度「休んで良いよ」と迎えてくれる家族がいました。とやかく聞いてこない両親に申し訳なさや恥ずかしさもありましたが、私には「帰る場所」がありました。社会のなかで、「穴」にぽっかり落ちてしまったとき、いつも差し伸べてくれる「手」がありました。数々の人に助けてもらいながら、生きてきました。

人はひとりでは生きていけないものです。しかし、今の日本では社会的養護を巣立った18歳以上の若者は社会から「独り立ち」することを強制されます。「相談する人がほしい」「誰かが作ってくれるご飯が食べたい」「仕事がなくなってお金がピンチだ!」…このようなことは、若者に限らず、何歳になっても経験することだと思います。行政支援で「お金」は得られるかもしれませんが、「温もり」や「励まし」は人との関わりの中で生まれてくるものだと思っています。

社会的養護を巣立った若者たちが、安心していろんな人に頼りながら笑顔で過ごしていけるために、私たちにできることはないかと強く問われました。

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