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【日本事業】福岡で感じた「協働」と「つながり」の大切さ 〜日本子ども虐待防止学会と実践の現場から〜

date2023.3.10

こんにちは、いつも温かい応援をありがとうございます。

かものはしプロジェクト日本事業部の金井です。

日本事業部では、2022年12月10~11日に福岡市で開催された「日本子ども虐待防止学会第28回学術集会ふくおか大会」に参加するとともに、学術集会の前後の日程を利用し、福岡市内の児童福祉に関わる団体の見学に行きました。

今回のブログでは「協働」と「つながり」をテーマに出張を振り返ってみたいと思います。

 


日本事業部に新メンバーとして12月から加わりました!写真右が金井、写真左が石濱

 

全国第2位の里親委託率56.9%!福岡市での協働の実践

皆さまは福岡と聞くと何を思い浮かべますか?おいしい食事、野球チーム、博多どんたくなど色々思い浮かべると思います。

実は福岡市は児童福祉において、行政と民間団体の協働により里親委託率を上げる取り組みを行い、里親委託率が高い自治体として有名です。

さまざまな理由により親と暮らせない子どもを施設や里親などの社会で育てることを社会的養護と言いますが、このような子どもが日本には約42,000人います。このうち里親宅で生活している子どもは全国平均で22.8%(2020年度末)です。一方、福岡市の里親委託率は56.9%と全国の自治体の中で新潟市に次ぐ第2位となっています。

ちなみに2004年の福岡市の里親委託率は当時の全国平均を下回る6.9%でした。この頃からなんと50%も委託率があがっています。なぜこのような成果があがったのでしょうか。その答えは今回の学術集会でも明かされていました。

※里親委託率:(里親とファミリーホームに委託されている児童)÷(乳児院と児童養護施設入所児童+里親とファミリーホームに委託されている児童)×100。厚生労働省は、より家庭に近い環境での養育を推進しており、里親委託率の向上を各自治体に求めている。

 


photo by Shutterstock

 

日本子ども虐待防止学会で感じた「協働」の成果

日本子ども虐待防止学会とは、児童虐待防止についての取り組みの推進を目的として実践者や研究者が一同に会する研究会です。学術集会が毎年開催されていて、今回参加した「ふくおか大会」は28回目の学術集会となります。

医師や看護師などの医療関係者、施設職員などの福祉関係者、弁護士などの司法関係者、教育関係者、行政職員、私たちのようなNPO職員等約2700名の参加がありました。これだけ多くの方が児童虐待防止の取り組みに携わっていることに勇気づけられます。

私も児童相談所のケースワーカーをしていた頃に学術集会に参加したことがあり、全国の児童相談所や自治体で先進的に行われている取り組みを学んだりしました。

今回のふくおか大会でも現役の児童相談所職員として働いている当時の上司や同僚と何人も再会し、現場職員の学術集会に対する期待を感じました。私の立場は変わりましたが、各自治体の取り組みや他団体の活動を学ぶことで、私たち日本事業部として取り組んでいく課題や活動を考える良い機会となりました。

※児童相談所のケースワーカー:児童福祉司。子どもや保護者から相談を受け、必要な支援・指導、および関係調整をする職員。

 


オレンジリボンは子ども虐待防止のシンボルマーク。回の学術集会のテーマは「こころをつなぐ」。

 

里親委託率がなぜあがったのか?

その答えは、学術集会の「福岡市における社会的養育の進展とこれから~官民共働の家庭養育から予防的支援へ~」というシンポジウムで話されていた、福岡市での行政と民間団体で協働した取り組みにありました(ちなみに「きょうどう」を福岡市では「共働」と表現しています)。福岡市で里親委託率があがったのも、この協働がきっかけとなっています。

 

実は、福岡市では2004年にも日本子ども虐待防止学会学術集会が開催されています。

当時、福岡市では里親委託率が全国平均を下回っており、社会的養護が必要な子どもが増える一方で施設の空きはないという状況でした。

学術集会に関連してNPOが事務局を担った市民フォーラムで開催された際に、課題感を持った行政とこれまで地域でのネットワークづくりを担ってきた民間団体が出会い、現状を打破するために施設を増やすのではなく、共に里親制度を普及していくことになりました。ここから対話を重ね、お互いの強みや課題を共有しながら、里親制度の普及啓発や里親支援などの取り組みを実施した結果、里親委託率が向上していきました。

 


子どもの村福岡での写真。前列真ん中がお話をうかがった藤本さん。ご自身も里親として子どもを育てた経験があるとのことです。

 

「子どもの村福岡」を訪れて感じた「つながり」の大切さ

学会が開催される前日に、福岡市と協働で里親制度を普及させている「認定NPO法人SOS子どもの村JAPAN」を訪問し、事務局次長の藤本さんからお話を伺いました。

「SOS子どもの村JAPAN」では、「子どもの村福岡での子どもたちの養育」「子ども家庭支援センターの運営」「里親による子どもショートステイ」「ヤングケアラー相談窓口」などの事業を実践しながら、広報活動を通じて社会的養育に関する情報発信をされています。

2004年の学術集会をきっかけにして、里親制度の普及啓発のために2005年から福岡市とNPOの協働事業が始まりました。この活動の中で、2006年7月に「子どもの村福岡を設立する会」が設立され、2010年4月に子どもの村福岡が開村となりました。

 

「子どもの村福岡」は福岡市西区今津にあり、博多駅から高速バスで50分ほどの自然豊かな場所にあります。

開村にあたっては、親と一緒に暮らせない子どもに対する不安や疑問を背景にした地域の反対もあったそうで、何度も話し合いを重ねたそうです。最終的には地域の理解を得られ、子どもの村受け入れの覚書を交わした時には、「今津の子としてともに育てましょう」と自治協議会会長がおっしゃったとのことです。長い時間をかけて対話したことにより地域との関係が強まったようで、「反対があったからこそ今が良くなっている」という藤本さんの言葉が印象的でした。

現在子どもたちや職員さんは地域のお祭りや行事にも参加したりし、お互いの顔が見える関係になっています。

 

「子どもの村福岡」には5棟の家族の家と呼ばれる建物があり、そのうちの3棟では3名の育親(いくおや:子どもの村福岡の里親)さんが子どもたちを育てています。育親さんだけでなく、ファミリーアシスタント、医師や心理士などの専門職でチームを組んで子どもたちを育てており、育親さんが孤立しないように工夫しています。

残りの2棟では、保護者の病気や育児疲れなどで子育てに支援が必要な家庭を対象に短期間預かる「子どもショートステイ」(福岡市からの委託事業)を行っています。子どもの預かりに加えて、保護者の悩みや不安にも寄り添い、家族が地域で暮らせるように支援しています。

「SOS子どもの村JAPAN」での取り組みには、子どもや家庭(里親家庭も含む)が孤立しないように、チームや地域で子育てをするという姿勢が強く感じられます。「子どもの村福岡」が地域につながることで、ショートステイを利用した家庭も地域や関係機関につながる仕組みが実践されています。

 


日本事業部では「児童養護施設などを出た若者の巣立ちの応援」、「地域における対話を通じた創発・協働」事業を担当しています。

 

今回の出張を振り返り、今後に向けて

私はケースワーカーとして子どもや家庭の支援をしていく中で、児童虐待の背景には家庭の孤立があると感じてきました。どの家庭にも課題や困難は起こると思います。その場合に、家庭だけで抱え込まず、家族や友人知人、地域、支援機関などとつながり、相談したり助けを求めたりできれば、児童虐待に至らずにすむのではないかと考えています。

今回の出張では、家庭が地域などの社会につながるための各地での実践を知るとともに、改めて「つながり」の大切さを感じました。

私たち日本事業部は、社会の中で豊かな「つながり」を育むことにより、児童虐待が発生しにくくなり、虐待を受けた人が回復しやすくなる社会を目指して、「孤立しがちな妊産婦への寄り添い」「児童養護施設などを出た若者の巣立ちの応援」「地域における対話を通じた創発・協働」という3つの事業を行っています。

いずれの事業もつながりを育むことを目的としていますが、そのためには私たちだけの力ではなく他の団体などと協働することも大切だと強く感じました。

 

すべての子どもが大人へと成長する中で、人や地域につながることの大切さを実感し、つながることができる。

子育て家庭に温かいまなざしや声が向けられ、子育て家庭は周りを頼っても良いと思え、必要な支援を求められる。

時には支援する側にもなり、支援者同士でもつながることができる。

このような社会になることを願いながら、今後も事業に取り組んでいきたいと思います。

 

引き続きのご支援をどうぞよろしくお願いします。

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